「気まぐれ雑感」小原沢俊之
日々是好日
気まぐれ雑感
2006.4月
〔旧華頂宮邸〕
今月(2006年4月)より旧華頂宮邸が新たに鎌倉市の景観重要建築物に加わった。
旧華頂宮邸は1929年華頂博信侯爵邸として建てられた。特徴的なハーフティンバーの意匠とともに幾何学的な庭園が一体となった素晴らしい邸宅である。これからもぜひ大切にしていってもらいたい。
私は、ほぼ同時期に建てられた東京都白金の旧朝香宮邸(1933年、現・東京都庭園美術館)を住宅から美術館へと保存活用のための改修の設計に何度か関わった。今でこそアールデコで有名になってしまったが、白金の旧朝香宮邸は、改修して美術館として公開される以前は、ほこりだらけで損傷も激しく、ところどころ廃屋のような状態であまり知られることもなかった。とても公開して見せられるような状態ではなかった。今の旧華頂宮の方が整備維持状態ははるかに良好のようだ。白金の旧朝香宮邸は、宮内省内匠寮工務課が直接設計に関わった。その意匠、仕様や材料には旧華頂宮とはだいぶ違いがある。しかし、この両邸宅は、どちらも庭園と一体となった旧皇族の住宅というだけでなく、内部各部屋の構成、意匠などには共通したところがあり、楽しく観させていただいている。旧華頂宮にどの程度宮内省が関わっていたかわからないが、当時の皇室邸宅建築の影響が随所に見られる。さらに、鎌倉は保養・別荘地として数々の洋館建築を受け入れてきたが、その当時の鎌倉の地域性が加味されているような感じがして大変興味深い。
(旧華頂宮が景観重要建築物に仲間入り 2006.4月 小原沢俊之)
2005.1月
〔野村総研跡地〕
先週、野村総研跡地を考えるワークショップが行われた。参加した市民の期待は大きく、さまざまな意見、活用方法が提案された。今後もさらに多くの議論がなされていくものと思われる。
建築家として私の感想。まず、あのような環境の場所では、17ヘクタールという敷地はたいして広いものではないこと。八方美人にあれもこれもと詰め込むほどの敷地規模ではない。研修施設であれ、ミュージアムであれ、単体機能の施設でこれ以上の広さの敷地を有するものは多くある。場合によっては欲する要素を減らしていく努力も必要ではないだろうか。
また、再活用を図る施設規模の縮小、既存建物の利用自体の見直しを含めた検討も必要だろう。現在は維持費の負担が大きい大規模なハコモノ施設を必ずしもを必要とする時代ではなくなってきている。量から質への転換を図っていかなくてはならない。既存建物ができてから何度か耐震基準も変わってきている。決して、安易にスクラップ・アンド・ビルドの風潮を容認すべきではないが、建築だけでなく、緑の自然環境、ランドスケープとともに考えていかなくてはならない。あのような自然環境で現在のままの4階建て15000uの規模がふさわしいものかどうか。大きな規模を抱えるということは、維持費だけの問題ではない。建物に近づかせないならともかくとして、使わないところであっても、地震などの災害に対して安全性を確保していかなくてはならない。すべてを利用しようとしないで、建物規模を縮小して森を広げていく、緑の回復を図った後戻りの開発も選択肢のひとつではないか。
視点を変えて、大きなハコモノ施設だけにたよらずに、今ある自然や歴史的資産を活かした鎌倉独自の連携のあり方から考えてみる。他をおざなりにするのではなく、野村総研跡地も全体的ネットワーク整備の中のひとつとしてとらえると、野村跡地に期待される機能が見えてくるかもしれない。
例えば
「文化芸術系」から
〔鎌倉の邸宅を活用した文化芸術ネットワーク構想〕
近代の歴史的な邸宅それぞれを鎌倉らしい芸術の拠点として特徴付けながら整備活用を図り、ネットワークの中で連携を図りながら歴史と文化芸術を継いでいく。
旧前田邸・・・・・文学 現・鎌倉文学館
旧川喜多邸・・・・映画 川喜多記念館建設に向けて募金活動展開中
旧華頂宮邸・・・・美術 庭園を活用した屋外アートの展示.
ごく一部の部屋のみギャラリーに利用.など
旧○○邸・・・・・音楽 ホールや居間を利用した小規模室内楽.
庭園を利用したミニコンサート.
旧△△玄関・・・・市民展示 まちかどギャラリー
旧□□邸・・・・・□□ ・・・・・・・・
・・・・・・・・etc.
各邸宅をつなぐパブリックフットパス・・・・魅力ある鎌倉のこみち網
門、塀、生垣などの景観的に優れた
路地はそれ自体がギャラリー
野村総研跡地・・・・ 例.総合的補完機能
収蔵、研修、ワークスペース、教養教育(一般、学校、子ども)等
収蔵庫に関しては、小さなものであれば、部屋の中にプレハブ式の恒温恒湿室を設置することもできるが、規模の大きい収蔵施設はやはり邸宅では難しいだろう。このような負担となる機能を野村跡地にまかせて、各芸術拠点を出先としてフットワークを軽くしていくことも考えられる。
同じように、広町、台峯などの自然や学校の授業、教育カリキュラムとの連携を図った「自然・野外研修・環境教育系」から野村総研跡地に期待すべき機能を考えていくこともできる。
特にこれからは、次代を引き継ぐ子どもたちの環境教育が重要とされる。しかし、残念ながら、鎌倉には野外体験学習とともに集団宿泊研修ができる施設がない。藤沢市には八ヶ岳にあり、市内には少年の森がある。宿泊研修がカリキュラムに組み込まれている。
藤沢市に限らず多くの自治体が子どもの環境教育に取り組んでいる。
他にも多くの考え方があるだろう。ただ、集客や大規模の必要性といったものはなかなか見えてこない。
さらには、鎌倉全体を場として、これらを包括した「エコミュージアム」の概念から考えていくこともできる。いずれにしても、ネットワークの中でのプログラムだてが重要で、単にハコさえ確保すればよいというものでもない。自然を含めた敷地全体、周辺環境、鎌倉の各ネットワークから考え、あまりさまざまな要望を当初から詰め込み過ぎないように削っていくことへの我慢も必要ではないか。なんでも盛り合わせたお子様ランチの大盛りのような施設が似合う場所ではないように思う。
(野村総研跡地を考えるワークショップに参加して 2005.1月 小原沢俊之)
〔旧邸宅などを再活用していくには〕
旧邸宅を一時的公開から常時利用して活用していこうとする場合には、建物全体を利用しようとする必要はない。ごく一部だけ、例えば、玄関だけ、庭に連続したホールや居間だけ、1階だけ、庭だけといった部分利用から考えていく方が財政的にも現実的である。全てを改修しなくてはならないと錯覚するといつまでも再活用にはたどり着けない。活用する部分と保全維持する部分とを分けて考え、動態的保存と凍結的保存を組み合わせていくような工夫も必要であろう。ただし、重文などは別として、建物は利用されてこそであり、利用されずに維持のみを長く続けていくことは、予算を含め大変なことである。頼らなければならないボランティアの意識と善意も、維持だけの状態でいつまで続けてくれるのだろうかという不安もある。
私が関わった旧朝香宮邸(現・東京都庭園美術館)でも利用しているのは建物の半分ほどである。それでなくても、住宅から用途変更して常時利用できるようにするには、多くのことに対処していかなくてはならない。補修工事以外でざっとあげるだけでも、内装仕上げの不燃化からはじまって、排煙設備、消火設備、避難設備などの防災面と温度・湿度をコントロールする空調設備、展示用の照明設備や音響設備、防犯、来館者用トイレの増設など数多くのハードルがある。もちろん耐震診断により補強工事が必要になることもある。温・湿度のコントロールがしっかりなされ、作品の劣化に配慮された照明設備などが担保されないと、企画・展示どころか作品を貸してもらうことすら困難になる。借り物に保険もかけられない。海外からの作品などの場合、条件は特に厳しい。音楽系では調律に影響することもある。幸い古い洋館などは、天井裏にダクトや配管を新たに組み込むことができるゆとりある階高に助けられたり、平面的にも余裕があって、機械室やトイレなどに転用できる部屋が容易に見つけられたりすることもある。
スペースに余裕をもって、時間をかけてしっかりとつくられた質の高い建物は、時を経て用途が変わろうとも持続可能であり、文化として継承していくことができる。それに比べ、公共、民間を問わず、社会的資産としてよりも、より安さを求める風潮の中でつくられていく最近の建物で、次代に残っていくものがどれほどあるのだろうか。自分の日頃の設計活動をふりかえっても、なんとも寂しい思いがする。
2004.11月
〔エコミュージアムとして考えたネットワーク化〕 (鎌倉エコミュージアム)
エコミュージアムの視点から既にあるいろいろな資源(自然、歴史、街並、建築、地域住民の活動、さまざまな市民活動団体など)を体系的にネットワーク化をはかることで活用。
(1)場 → 鎌倉市内
(2)活動・運営の主体 → 市民参加による管理運営
(3)内容・対象 → 自然、文化的遺産、景観、住民の活動
・自然、眺望、歴史、建物、鎌倉らしい路空間、商店街の通り、まちづくり、街並保全活動などがそのまま生きたミュージアム。 → 自然保護、まちづくり、商店街の活性化
・ミュージアムとしての自然景観、歴史景観、街並景観に関連づけてパブリックフットパス、歩行者プロムナード、サイクルパスのネットワーク化。 → 道路景観についても重点的な整備が可能
例.既にある景観重要建築物、かまくら景観百選もテーマ展示になる。
これらもエコミュージアムの中で位置付けることによって、新しい切り口でPRができる。また、保存活用の検討においてもエコミュージアムとしての調査研究部会のようなものにより、系統だった新しい糸口が生まれる。
見ることが出来る各景観重要建築物・かまくら景観百選の紹介とパブリックフットパスを連携させたネットワーク化。それに伴う道空間の景観整備。展示ルートの生垣、竹垣などによる風情ある路そのものも生きた展示品となる。
眺望景観調査なども積極的に活用し、その周知と市民自らが大切にしていく啓蒙に役立てる。そして、さらなる市民自らの調査、発表、ワーキングへの展開を促す。
・旧華頂宮邸や旧川喜多邸の保全活用、広町や台峯の自然、野村跡地などもエコミュージアムの概念の中で体系化が可能。
保全活用についても、もはや単体ごとに全て活用していく時代ではない。財政的にも困難。ネットワークの中でとらえることにより、部分活用の道が開ける。
・市民のワーキングに加え、鎌倉の文化人、知識人、学識者などの参加によるミュージアムとしての調査・研究・学習、子どもと一緒に行う自然観察、生涯学習、市民大学など。 → 人的資源の活用、子どもの環境教育、お年寄りの生きがいの場
・調査研究部会のひとつとして地区ごとの景観アセスメント。 → 都市系の景観形成に連携
・「鎌倉市都市景観形成基本計画」なども一過性のとりまとめで終わらせることなく、エコミュージアムの調査研究・展示教育普及の概念の中で継続的な活動としての進展をはかる。
・エコミュージアムを共通に利用する場とし、既にばらばらに活動しているさまざまな市民活動団体間の情報交換と連携、展示・発表などの機会をつくる。
・鎌倉は既に、自然や歴史などの環境資源だけでなく、まちづくり活動や100人会議、各種委員会などへの市民参加など市民主体の運営に向けた下地としての人的資源も豊富にある。必要なのは、これらを結びつけるコミュニケーションとネットワークであり、それこそがエコミュージアムの役割。
(エコミュージアムをあてはめてみた時の一考察として 2004.11月 小原沢俊之)